研究概要 |
海藻類のカルス細胞の誘導及び増殖技術には、摘出組織からのカルスの量が少ないこと、カルスの増殖速度が極めて遅いこと、カルスの分化を制御できないなどの問題点がある。これらの問題点を解決し、より実用的な培養系を確立するためには、カルス誘導条件とその過程の把握が必要となるだけでなく、成長,成熟,脱分化,再分化等のメカニズムの解明を視野においた基礎的研究と技術開発が求められる。そこで、本研究では、カルス誘導の効率誘導と増殖促進条件を明らかにすると共に、そのメカニズムについても考察した。その結果、下記のことが明らかになった。 1.カルス誘導の最適水温および塩分条件は、未切断の葉状体と類似の傾向を示した。すなわち、水温10℃で最も高い誘導率を示し、塩分が27.5psu以上の時に、高頻度でカルスが形成された。2.貧栄養滅菌海水中でのカルス誘導率は、富栄養海水中のそれに比べ低く、その後の成長が停止した。また、ビタミン類の添加によるカルス誘導率の促進効果は認められなかった。3.キレート剤であるEDTA, EGTA, NTAの添加は、カルス誘導をわずかに促進したか、左右しない程度であった。しかし、キレート剤と共に栄養補強剤を添加すると、カルスの誘導率は低下した。4.暗条件下でも糸状のカルスが誘導されるが、その後の成長は低下した。また、高光量で誘導されたカルスの成長はやがて止まり、脱色を招いた。このことは、独立栄養により成長可能であることを示すと共に,光量は誘導よりその後の成長を左右する大きな要因であると考えられた。赤色光の照射は、白色光や青色光に比べ、成熟を阻害すると共に赤色光は胞子体茎状部および付着器の伸長を促進した。また、赤色光はカルスの形成とその成長を促進した。これに対し、青色光は葉状体の成熟を促進した。5.カルス誘導の栄養要求において、植物成長調整物質が有効であることが明らかになった。コンブ類のカルス誘導には、オーキシンおよびサイトカイニンの同時添加が好ましいことが分かった。特に、オーキシンは細胞分裂と伸長を、サイトカイニンは白色化の抑制に効果的であると考えられた。カルスの誘導は、コンブ葉状体の部位によって大きく異なり、基部に近い部位から得た藻体片において高頻度でカルスの誘導が認められ,先端部ほどカルスの誘導率は低下した。これは、分裂活性に比例していると思われ、体内のオーキシンおよびサイトカイニン含有量の違いによるものと推察された。
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