研究概要 |
リグニン分解酵素はユニークな分解システムを持っており,天然の基質であるリグニンを分解するだけでなく,人工的に合成された様々な化合物(xenobiotic)も分解できる事がこれまでの研究から明らかになっている.リグニン分解菌は複合汚染された環境の修復に大変有望であるが,通常陸上環境に生息しているため,土壌汚染には対応可能でも海洋環境汚染に対する研究は皆無に等しい.このような背景から本研究では,海洋環境由来のリグニン分解菌を探索すると共に,分解菌が産生する酵素及び分解菌を用いた海洋環境に対応可能なバイオレメディエーション技術の開発を目的とし研究を行ってきた結果,リグニン分解酵素のうちの一種,ラッカーゼを産生する耐塩性微生物を発見し,その微生物の同定,ラッカーゼ最適産生条件の検討を行った結果,Pestalotiopsis属の糸状菌に帰属し,NaCl3%存在下においてもラッカーゼを産生する事から,塩存在下でのバイオレメディエーションにおいて大変有望な菌であることを突き止めた.本菌を用いた染料脱色試験の結果,NaCl濃度1.5%,3%においても11種中7種において色素脱色が確認された.また,内分泌撹乱作用を有し,環境有害物質である有機スズ化合物[トリブチルスズ化合物(TBT)とトリフェニル化合物(TPT)]に対する塩存在下での分解能を検討した結果,初発濃度0.1ppm,1.5%及び3%NaCl存在下において,それぞれ両者を約50%,及び約40%分解することを明らかにした(6日間培養).また培養2週間では,TBT, TPTをほぼ完全に分解できた.さらに,本菌を海洋環境浄化に応用するにあたって,マウス試験による毒性評価を行ったところ,急性毒性は観察されなかった.以上のことから本菌は海洋環境修復には充分適応可能と考えられた.
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