研究概要 |
霞ヶ浦水系に陸封化されたアユ集団に関して耳石日周輪を用いた成長解析、マイクロサテライトDNAを用いた遺伝的解析、胃内容物の分析による餌環境の評価、ならびに形態の他集団との比較を行った。さらに、安定同位体比を用いて餌の履歴の推定を検討した。まず,2000年級および2001年級の耳石日周輪からふ化日推定および成長の解析を行った。霞ヶ浦水系アユは冬季に透明帯が形成されるのが特徴的である。耳石目輪間隔は水温低下と相関して減少し、間隔が約1μm以下になると輪紋構造が光顕でも電顕でも見られなくなる。この透明帯は1月中旬から2月下旬に形成されることがわかった。耳石日輪数からふ化日を推定すると、2000、2001年級とも9月下旬から11月中下旬の間にあった。1月以前と2月から4月の採捕魚に分けると、2000年級では両者に差が見られ、早期に生まれた魚の生残が悪かったものと推定された。成長曲線はゴンペルツ式がもっともよく適合した。アユの胃内容物観察から体長2cmを境に餌サイズと組成が変化し,この現象は摂餌方法の変化といった発育段階の変化と関連するものと考えられた。遺伝的な解析に関してはマイクロサテライトDNAで評価したところ,海系アユと大差がなかったが,PAL5遺伝子座では傾向が異なった。安定同位体分析に関しては,霞ヶ浦湖内の若魚では窒素の安定同位体比率が高く,炭素の安定同位体比率は低かった。近隣河川の魚では窒素で低く,炭素で高くなっていた。この現象は,湖内では大型動物プランクトン食であり,河川に遡上した魚は付着藻類食であることとよく対応している。形態分析に関しては,過去にとられたデータを元に再解析を行った。現生の霞ヶ浦水系アユの鰓耙長が長いことが知られている。一方,1960年代の霞ヶ浦アユの鰓耙長も体長が小さいときから他集団より長く,現生アユとの関連が示唆された。
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