研究概要 |
本研究は,きわめて幼期の知見が少ないソコダラ科魚類の卵,仔魚の形態発育を調べ,初期生活史明らかにすることを目的とした.その結果,以下のことを明らかにした.(1)ヘリダラCoryphaenoides marginatusとムグラヒゲCaelorinchus kishinouyeiの卵内発生およびふ化仔魚の形態,さらに浮遊仔魚期の形態発育を記載した.本科で卵から浮遊仔魚期までの形態が連続的に記載されたのは初めてである.(2)サガミソコダラVentrifossa garmani,トウジン属の仲間,および属名不明の2タイプの浮遊仔魚を記載した.(3)ヘリダラ,ムグラヒゲ,およびサガミソコダラの浮遊仔魚(あるいは浮遊稚魚)の形態は著しく異なっており,このことは16S rRNA塩基配列に基づいた系統樹とも対応していた.既知のホカケダラ属のなかではヘリダラ浮遊仔魚の胸鰭柄部,尾部,および背鰭条や胸鰭条の伸長程度は低かった.伸長する胸鰭柄部や尾部,および長い鰭条は浮遊器官として考えられるが,これらの未発達なことは本種の非常に狭いontogenetic vertical migrationと対応していた.しかしながら,ソコダラ科全体でみると,浮遊仔魚期のこれらの特化程度とontogenetic vertical migrationとの関係は明瞭ではなかった.(4)チゴダラ科のカラスダラHarargyreus johnsoniiの浮遊稚魚およびギンハダカ科のリュウグウハダカPolymetme elongataの浮遊仔稚魚についても記載した.学会誌へは4編を投稿し,学会発表を6回行った.なお,本研究の一環として,陸棚斜面域の深海近底層(ごく底上)を確実に曳網できる方法を考案した.この方法によってソコダラ科のほか深海底棲性魚類の初期生活史が飛躍的に向上するものと期待される.
|