研究概要 |
本研究は,水産油脂の研究において使用する有機溶剤(特にクロマトグラフィーにおける移動相)の使用量を削減するための新しい分析システムの開発とその応用を目的に行われたものである.得られた成果は以下のように要約される. 1.水産生物脂質(グリセロ脂質)の骨格を形成するジアシルグリセロールの位置異性体をクロマトグラフィー(有機溶剤)を使わずに識別する方法について検討した結果,大気圧質量分析法がこの目的のために有効であることを明らかにした. 2.水産生物のリン脂質をUV及び蛍光誘導体に変換して分析することにより,ごく微量のサンプル量(ナノ〜ヘムトモルレベル)で,分子種分析が可能であり,生物組織からの脂質の抽出や成分の精製,HPLC分析における有機溶剤使用量が大幅に減少した. 3.深海性魚類由来のアルキルグリセロール分子の立体配置と分子種組成を同時に求める簡便な方法(ポストカラムHPLC/MS)を確立し,迅速分析と有機溶剤使用量の削減を可能にした. 4.内径0.3mmのキラルカラムを用いてDHA含有モノ-及びジアシルグリセロールの異性体(光学異性体)の分離を検討した結果,ヘキサン-ジクロロエタン-エタノールの混液を移動相として流量数マイクロリットルで送液することにより,両異性を互いに明瞭に分離することに成功した. 5.内径0.1mmの逆相カラムとアセトニトリルを移動相に用いて,5μL/minの流量でジアシルグリセロール混合物を分析した結果,種々の分子種について,従来法に匹敵する良好な分離が短時間で得られた.1回の分析に使用した移動相量は約300μLに過ぎなかった。これは内径4〜5mmのカラムを使用する従来法に比べて約200分の1の量であり,有機溶剤の使用量が大幅に減少したことから,資源やエネルギーの節約,実験者の健康と環境の保全に有効であると考えられた.キャピラリーHPLC法は環境低負荷型水産油脂分析法の1つとして,種々の試料の分子種分析に威力を発揮すると思われる.
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