研究概要 |
クロソイ体表粘液から見出されたグラム陰性菌に特異的に作用する抗菌タンパク質の構造と作用機構を明らかにすることを目的に本研究を行った。クロソイ抗菌タンパク質(以下SSAPと称す)を精製し,その部分アミノ酸配列を基にcDNAクローニングを行い,SSAPAの一次構造を決定した。SSAPcDNA(2037bp)のオープンリーディングフレーム(1662bp)は554アミノ酸をコードしており,アミノ酸残基1〜58はシグナルペプチドで,アミノ酸残基59〜554が成熟タンパク質と推定した。相同性検索の結果,SSAPはL-アミノ酸オキシダーゼ(LAO)と相同性を示したので,SSAPのLAO作用ならびに抗菌作用機構の解明を行った。SSAPのLAO作用は基質特異性がきわめて高く,基質にL-リシンしか認識しなかった。L-リシンに対するミカエリス定数Kmは0.19mM,比活性10.2unit/mg,代謝回転数Kcat20.4s^<-1>と算出された。抗菌スペクトル測定の結果,SSAPはグラム陰性菌にのみ作用しAeromonas salmonicidaに最も強力に作用し,最小発育阻止濃度は0.078μg/mlだった。しかし,カタラーゼ添加により抗菌活性が失われ,SSAPの抗菌作用は過酸化水素によることがわかった。SSAPと過酸化水素を用いて細菌に対する作用を比較したところ,両者の抗菌作用はほぼ一致し,A. salmonicidaとVibrio parahaemolyticusには殺菌的に,Photobacterium damselae subsp. piscicidaには静菌的に作用し,菌によって抗菌作用が異なっていた。SSAPおよび過酸化水素処理した上記3種菌体について,それらの形態を電子顕微鏡で観察したところ,前2者は菌体表面に著しい損傷が,後者は菌の伸長がみられ抗菌作用測定の結果を支持した。SSAPはグラム陰性菌,とくに魚病菌に選択的に作用することが特徴であるが,細菌のSSAP感受性とSSAPとの結合性に相関はみられず,SSAPの菌選択性については今後の課題となった。
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