研究概要 |
1.調査結果 愛知県一宮市の有機農産物専門スーパーマーケット・旬楽膳と豊田市に本社がある流通事業体・(株)愛農流通センターを調査した。旬楽膳は個別有機農業農家との取引と有機農産物流通事業体との取引を組合せながら品揃えと数量調整を行っている。また,愛農流通センターは,生産者と消費者が出資した株式会社であり,宅配,直営売店,卸部門からなり,約9億円の売上がある。約3000世帯(1200班)への宅配が売上の過半を占めており,生協やスーパへの卸売は30%に満たない。このような小さな産直の成立条件は,売り手と買い手の相互信頼が基盤となっており,栽培条件が確かな農産物を購入するためには,流通コストの負担増=商品価格の割高を買い手である消費者は受容している。ただし,このような小さな産直=ネットワーク型産直の事例は未だ少ないことも事実である。これは,商品価格,品揃え,数量調整,利便性などの点において大規模産直の方が優れているからである。 2.ネットワーク型産直の展開条件 ネットワーク型産直の展開条件として次の3点を指摘できる。第1に,「顔が見え,コミュニケーションができる」小さな産直を目指し,生産者と消費者が食べ物を通じて仲間になり,食料問題を共に考える関係性を育むこと。第2に,ネットワークのクラスターとなる生産者や消費者がそれぞれの流通条件を整えるとともに,農業や環境問題の理念を共有できる交流や学習の場を設定すること。第3に,理念共有型のネットワークはしばしば閉鎖的となりがちだが,新規参入者も受け入れる半開放型の組織であること。以上3点の必要条件を満たす産直組織が出現する可能性は高いと考えられる。 3.今後の課題 ネットワーク型産直が展開するには,都市と農村の距離がより近い方が望ましい。今後,中小都市周辺を探索し,ネットワーク型産直の萌芽とその成長過程を分析する課題が残されている。
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