研究概要 |
本研究は,農政転換と「農業の工業化」の下で形成されるようになってきた大規模経営やメガファームを,米国と日本を比較事例に,農業構造論の視角から実証的に分析することを目的とした。その研究成果の概要は以下のとおりである。 第一に穀作部門について,米国の小麦主産地カンザス州におけるメガファームは肉牛肥育との複合経営が多く,最大級農場では総販売額900万ドル,農場面積8,700haに達していた。技術体系では集約的な土地利用に移行し,不耕起栽培とGM品種の導入が普及していることが明らかとなった。いっぽうわが国の米麦二毛作地帯では経営面積20ha超の大規模家族経営が成長しており,圃場団地化を実現した場合米生産費が約1万円/60kgになっていること等を分析した。第二に酪農部門について,米国生乳市場で地域シェアを急拡大しているカリフォルニア州の中南部メガデイリーは,ドライロットとフリーストール牛舎,多頭型ミルキングパーラー,原料外給型TMR給餌法,群単位乳牛管理の技術体系による資本集約的・高生産性経営を実現しているが,乳価変動に対する脆弱性や環境規制による新規参入や規模拡大の制限にも直面していること等が明らかになった。第三に園芸部門について,米国最大の野菜産地となったカリフォルニア州サリナス地域では大型機械体系,埋設パイプ型自動圃場管理および外国人労働力に依拠してメガファームを構築しつつ,同時にメキシコにまで至る生産拠点配置によって量販店ルートへの周年供給体制を構築していることが明らかとなった。わが国畑作農業では鹿児島県薩摩半島南部で大規模畑作野菜経営が形成されているが,面積規模は15ha程度までで法人化経営も少数である点,同県大隅地区や官崎県南部の畑作メガファームとは展開形態を異にすることが明らかになった。
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