研究概要 |
1.cAMP依存性PTKの同定:精子の頚部と鞭毛主部ではSYKがcAMP-PKAシグナリング依存的に活性化されることを見出した。この活性化機構はリンパ球での機構と全く相違することから,精子SYKの活性化は新規の機序により制御されていると考えられる。 2.SYKの活性化と精子受精能力発現状態との相関性の観察:活性化型SYKが出現するcAMPアナログ処理2〜3時間後の精子では超活性化運動の発現が認められた。超活性化運動は精子の卵母細胞への侵入に必要な推進力を生み出すという事実を考え合わせると,SYKは精子の受精能力発現制御因子のひとつといえる。 3.精巣SYKのcDNA配列解析:精巣cDNAを鋳型として増幅したPCR産物(590塩基)は脾臓由来syk遺伝子のC末端触媒領域の配列と完全に一致した。これは精巣でSYKが産生されることを実証している。 4.精子SYK基質分子の特定と機能解析:精子SYKの基質分子はPLCγ1であった。SYKは自身のY352をcAMP依存的にリン酸化することでPLCγ1と結合可能となり,その後にPLCγ1に対してY783をリン酸化することで活性化を誘起することを示した。また,U-73122によるPLCγ1活性の化学的阻害は鞭毛での受精能力の過剰発現の抑制に有効なことを見出した。 5.PLCγ1ペプチド断片の精子への導入法の検討:2種類の市販キットを用いて検討したが,いずれも試薬や導入操作に精子の運動を低下させる要因が存在し,本研究の条件を満たすペプチド導入法を見出せなかった。 6.SYK-PLCγ1以外の精子受精能力発現制御因子の特定と機能解析:cAMP-PKAシグナリングの下流因子としてPKCが見出された。またPKC活性をRo-32-0432で化学的に阻害することで,鞭毛での受精能力過剰発現を適度に抑制できることを明らかにした。
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