研究概要 |
1、HNの細胞内シグナル伝達機構に関する研究 我々が発見したアルツハイマー病関連神経細胞侵害刺激を抑制するペプチド性因子ヒューマニン(HN)の作用機構を明らかにする目的で、主としてHNの構造活性相関に関する研究を行った。その結果、HNのそれぞれのアミノ酸をアラニンに置換したHN変異体を作成し、二量体化には影響しないが神経保護作用を有しないHNアンタゴニスト(P3A, L12A, S14A, P19A HN変異体)を作成した。また、その細胞死抑制シグナルについては詳細が明らかになっていないが、我々はこれまでに何らかのチロシンキナーゼが関与している事を見いだしている。そこで種々のシグナル阻害剤および変異遺伝子導入を用いた実験の結果、HNの作用機構にはSTAT3が関与している事を明らかにした。この事から、HNはSTAT3を下流分子とする受容体複合体を介してアルツハイマー病関連神経細胞死を抑制しているものと考えられた。 2、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の神経細胞死誘導性リガンドの同定に関する研究 我々はこれまでにAPPの細胞外領域を認識するモノクローナル抗体(22C11)が培養神経細胞に強力な細胞死を誘導する事を見出している。また我々は、この細胞死はAPPの細胞内領域に結合した百日咳毒素(PTX)感受性Goタンパク質とその下流分子から出力されている事を報告している。各種結合実験や細胞死誘導実験から、Transforming Growth Factor β2(TGFβ2)がAPPの細胞外領域に結合し神経細胞死を誘導する天然リガンドである可能性を示唆した。また、アルツハイマー病モデルであるTg2576の大脳においてTGFβ2の発現の増強が観察された。これらの結果は、アルツハイマー病の発症にTGFβ2が関与している可能性を示すものである。 3、アミロイドβペプチドが誘導する新規神経細胞死機序の解明 アルツハイマー病患者脳に沈着するアミロイドβペプチド(Aβ)がp75ニューロトロフィン受容体(p75NTR)に作用し神経細胞死を誘導することを昨年我々は報告した。今年度はp75NTRに相同性を有し、かつそれに結合し得るPLAIDDを用い、Aβが誘導する神経細胞死機序を更に検討した。その結果、PLAIDDは独自の神経細胞死シグナルを百日咳毒素感受性Gi蛋白質を介して出力することが明らかとなった。このAβ/p75NTR/PLAIDDが誘導する神経細胞死を、HNは抑制することを明らかにした。
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