研究概要 |
マウス精巣上体頭部の初代培養細胞に温度感受性simian virus 40大型T(tsSV40LT)抗原遺伝子を導入し,条件付不死化精巣上体頭部細胞株MECP5を樹立することに成功した.許容温度33℃では,大型T抗原が発現し,細胞が増殖した.一方,非許容温度におけるT抗原の発現低下と33℃における細胞密度の上昇は,細胞増殖を停止し,p21^<waf1>のタンパク質発現を誘導した.本細胞は,ME-1,SGP-2やアンドロゲン受容体等精巣上体頭部に発現する遺伝子を発現した.興味深いことに,ME-1とSGP-2の遺伝子発現は,細胞増殖停止の状態において顕著に増加した. tsSV40LT抗原遺伝子導入トランスジェニックマウス由来の精巣セルトリTTE3細胞は,33℃は増殖するが,39℃では大型T抗原の発現が低下し,細胞分化が誘導される.この分化誘導の機構を詳細に解明するために,我々はcDNAマイクロアレイを用いて遺伝子の経時的な発現変化を解析した.865遺伝子を解析した結果,14遺伝子の発現量が増加することが明らかとなった.リアルタイム定量的PCR測定法により,p21^<waf1>,MFGME-8,HRP12とselenoprotein P遺伝子の発現が顕著に上昇することを確認した. 以上より,精巣上体頭部MECP5とセルトリTTE3細胞は,男性生殖システムにおける遺伝子発現や内分泌攪乱物質を研究する非常に有用なモデルになると考えられる.以前の我々の研究において,セルトリTTE3細胞へのビスフェノールAの暴露によりfra-2,c-mycやODCを含む31遺伝子の発現が誘導されることを示した.現在,樹立した細胞株を用いて内分泌攪乱物質による男性生殖器障害におけるfra-2,c-mycとODCの役割を検討している.
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