研究概要 |
安定同位体トレーサー法は,内因性cortisol, cortisoneと投与由来cortisol, cortisoneを質量数の差から質量分析法で区別して測定でき,ヒトin vivoでの11β-HSD活性評価を安全かつ的確に行うことができる.著者の研究室では,cortisol-^<13>C_4の11α-位に重水素が導入されたcortisol-^<13>C_4,^2H_1を合成し,これを健常人に投与した実験から,cortisol-^<13>C_4,^2H_1の11α-位の重水素脱離を指標に11β-HSD2活性の正確な評価が可能であること,また,その消失半減期が11β-HSD2活性の指標となることを明らかにしてきた. 一方,尿中の内因性cortisone, cortisolの濃度比E/F (cortisone/cortisol)は,F分泌の影響が少なく,腎における11β-HSD2酵素活性評価に適しているとされている.しかし,尿中E/F比には,日内・日間で変動が大きく,尿中E/F比の値を直接11β-HSD2酵素活性評価に利用するには難しい面がある. 本研究では,1)[11α-^2H]cortisolをトレーサーとして用いた11β-HSD2活性評価法を検討することを目的に,cortisol-^<13>C_4,^2H_1および[11α-^2H]cortisolを健常人に同時投与し,両標識体の生物学的同等性を確認した.また,cortisol-^<13>C_4,^2H_1については速度論的解析を行い,既に著者の研究室で行われたcortisol-^<13>C_4,^2H_1投与実験でのデータとの比較・検討を行った.さらに,[11α-^2H]cortisol投与法の臨床応用を念頭に,[11α-^2H]cortisolの消失半減期を数点の採血により正確に算出する検討を行った.2)健常人を対象とし,尿中E/F比の変動の要因を考察するとともに,尿中E/F比を指標とした腎11β-HSD2酵素活性の新しい評価法について検討を行った.また,3)腎疾患患者の24時間尿中cortisolとcortisone濃度を測定し,尿中cortisol濃度と尿中cortisone/cortisol比との関連性を考慮したうえで,11β-HSD2活性評価を行い,11β-HSD2活性と腎疾患や高血圧等の疾患との関連性について検討した. 本研究は,腎における11β-HSD2酵素活性評価法について詳細な検討をしたものであり,11β-HSD2酵素活性と高血圧発症機構との関連性を解明していくうえで,有用な情報を提供している.
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