研究概要 |
アラキドン酸からシトクロムP450(P450)によって産生されるエポキシ体(EET)については、血管拡張作用や抗炎症作用など様々な生理活性が報告されている。当該研究ではEETの血管内皮増殖因子(VEGF)の発現促進作用という新しい生理活性を見いだし、このメカニズムについて検討した。ヒト臍帯動脈血管内皮細胞(HUAEC)を用いて、低酸素下におけるVEGF誘導について検討した。細胞膜からアラキドン酸を供給するボスフォリパーゼA2酵素の阻害剤MAFPでは、VEGFの発現が低下した。またP450に電子をわたす酵素であるNADPH-P450還元酵素の阻害剤DPIC、P450の酵素阻害剤であるケトコナゾール、サルファフェナゾールも同様にVEGFの発現を抑制した。EETには4種類の異性体、5,6-EET,8,9-EET,11,12-EET,14,15-EETが存在するが、HUAECのミクロゾ-ムを用いた検討では、14、15-EETのみが産生された。HUAECに外から14,15-EETを添加するとVEGFの発現が誘導されたが、この加水分解物であるジオール体(DHETE)では、この効果はなかった。ところで、VEGFの低酸素下の発現には低酸素感受性因子HIF-1が関与していることが明らかになっている。申請者は、いくつかの低酸素応答阻害剤や促進剤を見いだしているが、これらはHIF-1の発現量を変化させることで低酸素応答に影響を与えていることを見いだしている。ところが、EETはHIF-1の発現には影響を与えなかった。以上の結果から血管細胞でP450によって産生されるEETはVEGF発現に関与しているが、メカニズムとしてHIF-1直接的ではない可能性が示唆された。
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