研究課題
基盤研究(C)
我々は先に、抗CD3抗体投与で腸上皮細胞間リンパ球(IEL)を刺激することで、空腸の絨毛上皮細胞にDNA断片化を誘導出来ることを見いだしている。さらにその後、半数の上皮細胞が管腔内に剥離するものの、絨毛に残った上皮細胞にはDNA断片化が検出されず、一度DNA断片化を生じた細胞においてDNA修復が行われることを強く示唆する結果が得られていた。本研究では、アポトーシスの指標とまで考えられた「DNA断片化」を生じた細胞が真にDNAを修復するのかどうか、検討した。DNA修復関連分子について免疫組織学的手法で検討した結果、DNA断片化が生じている上皮細胞の核内にγ-H2AXおよびRad50が検出(foci形成)され、実際に上皮細胞の核内でDNA修復が行われていることが確認できた。また同様にDNA修復関連分子の一つであるMre11も検出された。断片化を生じたDNAが実際に修復されうることがヒト色素性乾皮症を除いて初めて生体内で判明した。本研究で観察した絨毛上皮細胞は休止期の細胞であり、精母細胞等の常態的にDNA修復関連分子が存在する成熟分裂中の細胞とは明らかに異なる細胞である。つまり今回休止期の上皮細胞において検出されたDNA修復関連分子は、DNA断片化を修復するために損傷部位に動員されたものと考えられる。さらに本実験で用いた3種類のDNA修復関連分子の発現動態はDNA断片化の検出動態と一致しており、この結果もまたDNA修復が確かな現象であることを支持する。DNA断片化が細胞に生じることは、直接的に細胞死を意味する訳ではない。つまり「DNA断片化のみでは無条件にアポトーシスのような細胞死の直接的な原因とはならない」ということが明らかとなった。
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