研究概要 |
TGFβ3遺伝子欠損マウスを戻し交配(8世代以上)により、C57BL/6J, 129/Sv, FVB/N, SJL/J, ICRの各系統で樹立し、ホモ胎児の口蓋裂表現型の系統差を調べた。その結果、C57BL/6Jでは100%の頻度で完全口蓋裂のみがみられるのに対して、ICRでは口蓋前方部分のみ癒合した不完全口蓋裂が100%の頻度でみられた。また、129/Sv, FVB/N, SJL/Jの各系統ホモ胎児では、完全口蓋裂と不完全口蓋裂の両表現型が種々の頻度で混在していた。さらに、各系統野生型胎児のMEE細胞の最終分化能力を我々が開発した単一口蓋突起回転浮遊培養法を用いて調べた結果、in vitroにおけるMEE細胞の最終分化能力とTGFβ3遺伝子欠損マウスの口蓋裂表現型との間に相関性があることが示唆された。また、対にして培養した口蓋突起を組織学的に解析した結果、同じTGFβ3-/-マウス胎児口蓋でも、C57BL/6J系統と異なり、ICR系統では口蓋前方部分のMEE細胞は間葉細胞ヘトランスフォームする能力を保持していることが明らかとなった。以上の実験結果から、口蓋形成遺伝子の異常と遺伝学的背景に隠されている修飾因子(変更遺伝子)との複合が口蓋裂表現型の多様性を生み出していることが示唆された。さらに、C57BL/6J系統のTGFβ3遺伝子欠損マウス胎児の口蓋突起は脱メチル化剤(5-アザデオキシシチジン)添加培地で培養することにより、ICR系統とほぼ同じ不完全口蓋裂にまで回復できることから、口蓋裂表現型の修飾因子はインプリンティング遺伝子である可能性が示唆された。しかしながら、口蓋裂表現型の修飾因子として、複数の候補遺伝子についてRT-PCRとWestern blot法で解析したが、現在までに実験群と対照群で有意な差を示す因子は検出されていない。
|