研究概要 |
近年、リンパ管内皮細胞に特異的に発現するいくつかの機能分子が同定され、それらの特異マーカーを用いた新しい組織化学法を応用して、毛細管レベルでのリンパ管と血管の区別ができるようになり、リンパ学の研究が進展してきた。最近では、脈管新生が悪性腫瘍の増殖・浸潤・転移に重要な役割を演じていることが注目され、多くの脈管内皮細胞増殖因子(Vascular endothelial growth factor, VEGF)及びその受容体との関連性が議論されてきている。リンパ管の申請・再生に関与するVEGF-C及びその受容体VEGFR-3/Flt-4は腫瘍の増殖・転移との関わりのみならず、リンパ浮腫や関節リウマチなど多くの病態生理的現象との関連性において興味深い因子である。 本研究では、1)正常及び腫瘍組織における毛細リンパ管の形態と微細分布、2)腫瘍リンパ管におけるリンパ管内皮細胞特異マーカーの発現状況、3)腫瘍リンパ管の増殖・新生の機序とその意義について検索した。 同意を得て手術により摘出されたヒト胃・腸管、唾液腺等の一部を採取し、組織ブロック及び、顕微鏡下で剥離伸展した試料を作成した。これらの試料は大分大学医学部及びMarburg大学等の諸施設の協力により採取・提供されたものである。各試料は、毛細リンパ管の特異マーカー(5'-nucleotidase, CD73, LYVE-1, VEGF-C/VEGFR-3, Podoplanin, D2-40等)による組織化学的染色、in situ hybridization法等を施した。すなわち、腫瘍等組織を上記の組織化学反応の後、光学顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、走査型電子顕微鏡で観察し、リンパ管内皮細胞の動態と機能形態を観察した。また、特に組織化学反応後の組織ブロックを、これまで我々が開発・応用してきた酵素組織化学・免疫組織化学SEM法を駆使し、微小循環系の三次元的構築も明らかにした(下田他2004,梶原他2004)。 以上、本研究の成果はAnatomical Science International (Kato et al., 2006)及びInternational Review of Cytology (Shimoda and Kato, 2006)に掲載した。
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