研究概要 |
肉腫は,その発生母地である間葉系細胞の多彩さを反映し,非常に多くの種類がある.その中には悪性度の高いものも多く含まれているが,個々の肉腫の頻度は低いため,病理診断が極めて難しい.一方,適切な治療や予後の推定のためには正確な病理診断が不可欠である.近年,多くの肉腫に腫瘍特異的な染色体相互転座とそれに由来するキメラ遺伝子の存在が明らかとなったので,これを指標としてDNAアレイ技術に基づいた分子病理学的診断法の構築を試みた.滑膜肉腫,明細胞肉腫,ユーイング肉腫の腫瘍RNAよりcDNAを作成後,これらを含む数種類の肉腫特異的なキメラ遺伝子群のmultiplexPCRを施行,この際反応産物に組み込んだSP6プロモーターにより逆転写しビオチン標識キメラ遺伝子cRNAを作成した.シグナルの検出には,各パートチー遺伝子のエクソン内の配列をプローブとしてメンブレン上に配置しプレパラートに貼り付けたマクロアレイスライドを用いた.cRNAとスライドのハイブリダイゼーション後アルカリフォスファターゼ発色し,シグナルを可視化した.その結果,殆どの検体で当該のキメラ遺伝子の検出ができ,ダイレクトシーケンス法の結果と一致した.また,キメラ遺伝子融合部位のエクソンの同定も可能であった.本法は遺伝子増幅装置があれば病理検査室で充分実施可能な簡便な方法で,また3日程度で実施可能なため通常の組織標本作成と並行して行うことができる.結果は組織標本と共に保存が可能である.診断面の利点として,多くのキメラ遺伝子を一度に検索できるので,病理組織学的診断に左右されない分子病理学的診断を行える.したがって本法は肉腫の病理診断の精度向上が期待できる,新しい実践的なキメラ遺伝子検出法として意義深いと考える.
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