研究概要 |
(目的) maspin (mammary serine protease inhibitor)は,乳癌の癌抑制遺伝子として単離され,免疫組織学的に発現の減弱している重層扁平上皮癌,前立腺癌,乳癌では,高頻度に転移を認めることが報告された.しかし,膵癌や卵巣癌患者の正常上皮では発現が認められず,腫瘍の進展とともにmaspinの陽性率が高くなり,まるで癌遺伝子のような振る舞いをすることが報告された.このような相反する報告の背景には,古典的癌抑制遺伝子の不活化機構では,説明のつかない事象があると思われる.本研究課題ではmaspin遺伝子の,(1)発現制御機構,(2)生物学的意義を明らかにする. (方法) (1)maspinの発現機構に関わる研究:p53遺伝子の,N末のリン酸化,C末のアセチル化,遺伝子自体の構造異常を解析する.(2)maspin遺伝子発現の生物学的意義に関する研究:maspin遺伝子のinducible cloneを作成し,cDNA microarray/プロテオーム解析を行い,maspinの発現によって変動するmRNA/蛋白質を網羅的に同定する. (結果) 1)肝癌におけるmaspin遺伝子の発現抑制はp53遺伝子の転写制御によらないことを明らかにした. 3)胆嚢の腸上皮化生粘膜でaberrantな発現のみられることを明らかにした. 2)maspinのinduciblecloneを作製した. 3)胃癌においてmicroarray解析によりmaspinの過剰発現とリンパ節転移との関連を明らかにした. 4)maspin遺伝子の転写制御はp53遺伝子以外にもp63遺伝子によって制御されている可能性があり,この転写制御機構について解析する. 5)子宮体癌の扁平上皮化生部分で異常発現を認めた. (方向性) maspin蛋白質の異常発現は,化生性の変化と密接な関連があり,発がんの発生母地となる可能性が示唆された.
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