研究課題
基盤研究(C)
我々はこれまでの研究でCD30過剰発現と恒常的NF-κBというHodgkin and Reed-Sternberg(H-RS)細胞の特徴が過剰発現によるCD30の自己活性化による恒常的NF-κB誘導というループを介してHodgkinリンパ腫の病態に本質的に関わっていることを明らかにした。H-RS細胞とAnaplastic large cell lymphoma(ALCL)細胞はCD30を過剰発現するにもかかわらず、恒常的NF-κB誘導はH-RS細胞では認めるがALCL細胞では欠如している。この原因を明らかにすることは同じCD30過剰発現を有するリンパ腫であるにもかかわらず異なる形質を示し、かつ境界例も存在するふたつの疾患群の分子基盤を明らかにする切り口となると考えられた。本研究ではT細胞系のH-RS細胞株にP80NPM-ALKを導入すると恒常的NF-κB誘導が消失しかつALCLの特徴を備えた細胞形質へと変化することが示された。すなわち、CD30-NF-κBシグナルのP80NPM-ALKによる阻害がH-RS細胞とALCL細胞を分ける重要な分子基盤であると考えられた。CD30はTRAFを介してNF-κBの恒常的活性化を誘導するが、P80NPM-ALKの存在下でCD30-TRAF-NF-κB経路を阻害することが明らかとなった。T細胞系のH-RS細胞株や皮膚ALCL細胞株にP80NPM-ALKを導入すると、恒常的NF-κB誘導が消失し、かつALCLの特徴を備えた細胞形質へと変化することが示された。具体的にはALCL特徴的形態、EMA、ClusterinといったALCLに特徴的マーカーの誘導である。B細胞系H-RS細胞株では、恒常的NF-κB誘導は抑制されたが、ALCLに特徴的マーカーの誘導は認められなかった。この実験結果は、P80NPM-ALK陽性ALCLが一般にT細胞性リンパ腫であるという事実を良く反映した結果である。すなわち、P80NPM-ALKはT細胞系のCD30過剰発現疾患群において一つの重要な分子基盤を与える分子であると考えられた。さらにCD30プロモーターの解析で、JunBがその発現誘導に重要であることを示した。さらにT細胞系のH-RS細胞株や皮膚ALCL細胞株、P80NPM-ALKを有するALCL細胞においてJunBによるCD30誘導がCD30過剰発現の共通の分子基盤であることが明らかになった。
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