研究概要 |
現在、川崎病罹患児の95%以上は後遺症なく治癒する。しかし、心血管後遺症を残すことなく治癒する川崎病罹患児においても多くの場合、冠状動脈には軽微ながら血管炎の瘢痕が存在する。これらの長期的予後、すなわち狭窄性病変へと進展する可能性についてはいまだ明らかにされていない点が多い。そこで、本問題に関し病理組織学的見地から検討することを目的とし、剖検時動脈瘤が確認されなかった遠隔期川崎病剖検例の冠状動脈に対して、細胞増殖因子や内膜平滑筋細胞形質についての免疫組織学的手法を交えた検索を試みた。 対象と方法:40病日以降に死亡した川崎病7剖検例を対象とした。死亡時年齢は1歳7ヶ月〜15歳。罹患から死亡迄の期間は60日〜14年である。HE,EvG,AM,Al-B染色を施行し、特に内膜の構成成分について組織学的検索を施行した。さらに、追加検索可能であった症例については増殖因子、平滑筋細胞形質に関する抗体を用い免疫組織的検索を加えた。 結果:7例中5例でかつて血管炎が存在したことを推定し得る、非川崎病症例(対照)とは明らかに異なる全周性の内膜肥厚、中膜の菲薄化、内弾性板の伸展が認められた。一方、2例は対照と比して目立たない程度の内膜肥厚であり血管構築は良く保たれていた。 免疫組織学的には、発症後1年以内に死亡した症例の冠状動脈の内皮細胞や平滑筋細胞にはPDGFやVEGFなどの増殖因子が発現しており、また、肥厚内膜中には脱分化型が示唆される内膜平滑筋細胞が出現していたが、発症後1年以上が経過した症例では、増殖因子、内膜平滑筋細胞形質共に非川崎病対照例のそれと明らかな差異を見出せなくなった。 考察:動脈瘤を残さない冠状動脈にも多くの場合、血管炎の瘢痕が残存するが、内腔が正常化した場合、対照と同様の構造を示すようになり遠隔期に狭窄性病変へとさらに進展する危険性は低いものと推測された。
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