研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は、生命・医療倫理領域の諸問題に対する日本人研究者の規範的態度を明らかにすることである。一年目はわが国の人々が持つ死の自己決定-主に「尊厳死」-に関する態度を検討し、二年目は医学研究の持つ様々な側面-特に人を対象にした臨床研究と医療における医学研究(実験的医療)の位置付け-に対する日本人の態度を探った。2000年以降にわが国の生命倫理学研究者・教育者が発表した論文や著作を対象に文献研究を施行した。その結果の要約を以下に記す。死の自己決定に関しては、現代日本の生命倫理学研究者・教育者は、死の自己決定に対して極めて多様な態度を有していることが示唆された。自己決定と呼ぶに値する真正な自己決定は存在しない、全ての決定は本質的に共決定にならざるを得ないという考え方、国民から死の自己決定は望まれていないという立場、更にたとえ自己決定が可能であったとしても死に関する自己決定権はないという見解もあった。また死の自己決定権は概念上あったとしても適切に実施できない、自己決定尊重は結果的に他者や同一疾患を持つすべての患者に害を及ぼすため許容されない、患者が何らかの外的圧力を受けることなく本当に自発的にそして純粋に死の自己決定を行なうことはできないという主張があった。研究に関しては、「研究の倫理」、「医学研究と医療」というテーマの下に多種多様な記述、議論、主張が認められた。非人道的・非倫理的な医学研究への言及、倫理委員会や研究倫理の重要性に関する認識は共通して認められた。医療の進歩の限界や医学研究において人を「利用」することの是非に関する議論は僅かだったが、医学を含めた科学技術の進歩が必ずしも人間の幸福に貢献しないという見解は散見された。また医学研究者が専門職として持つべき倫理観、利害相反状態に対する対処の重要性、医学界の研究至上主義による様々な弊害と不正行為に関する指摘もあった。
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