研究概要 |
塩酸イリノテカンCPT-11の薬剤耐性に乳がん耐性蛋白BCRPの発現が直接関与していることを小細胞肺がん細胞株とその耐性株を用いてアンチセンス法で証明した。また,この耐性獲得を導いたBCRPの誘導発現はこの遺伝子の発現調節領域の脱メチル化によって起こることをメチル化阻害剤の投与やbisulfite sequencing法を用いて証明した。そして,メチル化の有無(メチル化では発現せず,非メチル化では発現する)を簡便に検出できるmethylation-specific PCR(MSP)法を開発した。次に,小細胞肺がんや非小細胞肺がん株を用いて,また肺がんや大腸がんの切除手術標本組織を用いて,今回開発したMSP法によるメチル化の有無とBCRP mRNAやタンパク質発現問で逆相関することを示した。つまり、in vitroでもin vivoでもDNAを用いたMSP法の結果からBCRP発現が予測できることを証明した。 そこで,cohort studyとして遺伝子診断(抗がん剤の投与前診断)を行った。化学療法を行う前に肺がんの生検組織をMSP法で解析してBCRP発現の有無を推測し,個々の患者で行われた化学療法の治療効果問で相関解析を行った。この「BCRPのメチル化」という新しいバイオマーカーとしての遺伝子診断の精度は感度83.3%で特異度77.8%であった。ただ,症例数が15例と少なく,もっと症例数を増やすことで,BCRP発現をMSP法で予測する遺伝子診断の信頼性がより高くなり,CPT-11を含む化学療法の治療効果を投与前に予測できるようになるであろう。また,他のがん,例えば大腸がん,胃がん,乳がん,卵巣がん,絨毛がんなどに,同遺伝子診断システム(抗がん剤の投与前診断)が応用できると思われる。
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