研究概要 |
トリフェニル錫は、ハムスターに膵ラ氏島B細胞からのインスリン分泌不足による糖尿病を発症する。本課題では、その機序を解明する目的で、トリフェニル錫経口投与2日後のハムスター膵臓から分離した膵ラ氏島、膵ラ氏島細胞を用いて下記の成果を得た。 1.トリフェニル錫は、グルコース刺激後のNADPH, ATP産生、膜の電位、細胞内Ca^<2+>、インスリン分泌を低下した。しかし、ATP誘導体によるインスリン分泌は改善した。 2.トリフェニル錫は、グルコース代謝中間産物によるインスリン分泌は抑制したが、高K^+とスルフォニルウレア剤による細胞内Ca^<2+>インスリン分泌を増強した。 3.トリフェニル錫は、細胞外Na^+とグルコース存在下で10nM GLP-1,GIP刺激によるインスリン分泌、細胞内Ca^<2+>,Na^+の増加を抑制した。またフォルスコリン(アデニレートシクラーゼの活性化剤)刺激によるcAMP、インスリン分泌、細胞内Ca^<2+>,Na^+の増加を抑制した。さらに細胞外Na^+存在下で50μM 6-Bnz-cAMP{プロテインキナーゼA(PKA)活性化剤}、50μM 8-pCPT-2'-O-Me-cAMP(PKA非依存性cAMP類似体)によるインスリン分泌、細胞内Ca^<2+>,Na^+の増加を抑制した。 4.トリフェニル錫は、対照に比し、ジアゾキシド(K_<ATP>チャネル開口剤)と30mM K^+存在下で15mMグルコース刺激後の細胞内Ca^<2+>、インスリン分泌を増強した。またジアゾキシド、30mM K^+と15mMグルコース存在下でアセチルコリン刺激による細胞内Ca^<2+>,Na^+、インスリン分泌を増加した。 5.トリフェニル錫(2.5-10μM)は、in vitroで15mMグルコース刺激によるインスリン分泌と細胞内Ca^<2+>の増加を低下した。またフォルスコリン(アデニレートシクラーゼの活性化剤)刺激によるcAMPの増加を低下した。トリフェニル錫投与によるムスカリニック(M3)、スルフォニアウレアなどのレセプターの発色には差がなかった。
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