研究概要 |
高齢化社会が進む日本において高齢者自身の主観的幸福感や生きがいといった入生の質(QOL)に関する研究は極めて重要である。我々はWHOQOL-OLD日本語版を用いて高齢者の主観的QOLを調査し、高齢者のQOLに関係している社会背景因子ならびに性格5因子を解明することを試みた。【方法】首都圏在住の70歳以上の高齢者109名(平均76.3歳、男性58名、女性51名)を対象にQOLを調査し、社会背景因子と性格5因子との関係を検討した。 QOLの評価にはWHOQOL-OLDを用いた。QOLは6下位領域(感覚能力、威厳、過去・現在・未来の活動、社会参加、死と死にいくこと、他者との親密さ)毎に得点化される(5点満点)。性格5因子(神経症傾向、外向性、開放性、調和性、誠実性)はNEO-FFIを用いて評価した。社会背景因子として、同居家族の有無、学歴、就労状況、経済状況、家族関係、主観的健康観、罹病状況、嗜好品を調査した。【結果】QOLの平均得点は3.4点でいずれの領域でも男女差は認めなかった。「感覚能力」「威厳」のQOLが高く「死と死にいくこと」「他者との親密さ」のQOLが低かった。重回帰分析によるQOLと社会背景因子との関係は、QOLは「家族関係が良好であること」と正相関を示した(男性R^2=O.48,β=0.57,p<.001,女性R^2=0.44,β=0.41,p<.05)。QOLと性格5因子の関係は、男性において外向性と誠実性がQOLと正相関を示し(R^2=0.37,外向性β<0.34,誠実性β=0.25,p<.05)、女性において神経症傾向がQOLと負相関を示した(R^2=0,49,β=-0,49,p<.01)高いQOLと関連する男性の性格は、健康長寿の性格特性と一致しており、健康長寿に発展する可能性がある。一方、女性では抑うつ対策がQOL向上に寄与する可能性がある。クラスター解析によりQOLを3型(全般良好型、高感覚型、低感覚型)に、性格を2型(神経症傾向の低い成熟型、神経症傾向の高い未熟型)に分類した。成熟型は未熟型に比べて有意にQOLが高かった。成熟型には全般良好型が、未熟型には低感覚型が多かった。低感覚型は老化への適応不全ととらえることができ、高齢期のQOL向上には老化に対する適応能力も重要な要素と考えられた。
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