研究概要 |
空腹時血糖値は簡易であり,集団検診レベルの糖尿病のスクリーニングとして,よく用いられているが,空腹時の血糖値のみに基くため,食後高血糖の見落としも多い.当研究では,空腹時血糖値と,もうひとつのスクリーニングであるグリコヘモグロビンAlc(HbAlc)との食後高血糖の診断の正確さを比較し,糖尿病患者の早期発見のための望ましいHbAlc基準値を明らかにすることを目的とした.現時点では,HbAlc 6.5%という基準が,空腹時血糖と同等の診断の正確さをもつが,特異度が高く感度が低い基準であるため,新規患者の発見のためには,正確さを生かしきっていない可能性が高い.今回の研究の骨子は,この基準を段階的に下げたときの,正確さの変化と,糖尿病新患者発見のための寄与を見ようというものである.食後高血糖診断には,75g糖負荷試験を用いた. 空腹時血糖値,HbAlc,糖負荷試験の全検査を受けた554人(男231人,女323人)を対象とした.ROC曲線の分析より,HbAlcは空腹時血糖と異なり,基準値を下げても診断の正確性は低下しなかった. 基準値が6.5%のときは,真陽性が2.4%,偽陽性が1.1%で,この対象において,空腹時血糖値で見落とした食後高血糖の19%が発見できる.基準値を5.6%のときは,真陽性・偽陽性割合ともほぼ10%であり,陽性反応的中度は50%となる.空腹時血糖値で見落とした食後高血糖はその80%を見つけることができる.また,感度は0.91,特異度は0.82であった.5.5%より下げると,陽性反応的中度が低下し,コストが増大する. HbAlcは空腹時血糖値と比較して,正確さに遜色はないが,6.5%という基準は,食後高血糖の発見のためには十分ではない.当研究からは,基準を5.6%とするのがHbAlcの正確さに見合った基準であると考えられる.
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