| 研究概要 |
骨試料からDNAを抽出する際の脱灰処理の迅速化を図るため,マイクロウェーブ(以下,MW)照射により反応が亢進されるか否か等を検討した.試料としてウシの中手骨緻密質をブロック状に加工したものを準備し,0.5M EDTA溶液による脱灰を行った.MW照射群として反応液の温度を37℃前後および56℃前後とする2群を検討し,MW非照射群として,37℃,56℃に加えて80℃を設定した.各群の脱灰処理時間は3,7,11,15および24時間とし,処理後の骨ブロックをproteinase Kにより溶解し,DNAを抽出した.なお,各骨ブロックについては,あらかじめX線マイクロCT撮影により体積を測定し,溶解処理後の残渣の体積との比をもって溶解率とし,これを脱灰の進行度として評価を行った.また,MW照射がDNAに与える悪影響が推察されたため,ウシmtDNAコントロール領域内419bpを標的とした競合PCRを用いてamplifiable DNAを定量することにより,PCR反応への適性が損なわれていないかを併せて検討した.脱灰反応の進行は56℃非照射群で最も速く,80℃非照射群はその速度には及ぼなかった.この結果は,脱灰の進行速度は必ずしも温度の上昇によって亢進されるものでは無い事を示すものと考えられた.今回の実験では,いずれの温度条件下においても,MW照射による脱灰反応の亢進作用は認められなかった.さらに,単位溶解量あたりのamplifiable DNAはMW照射により顕著に減少することも確認された.以上の結果は,MW照射は骨試料のDNA抽出の迅速化に貢献しないことを示唆しているが,今までの実験手技が照射室内のMW分布の不均一性に若干配慮を欠いていた可能性も考えられるため,現在,MW分布状態の確認および温度条件の厳密な設定等を行い,さらに検討を進めている.
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