研究概要 |
ラットの糞便懸濁液を用いた代謝実験において,グリチルリチンの代謝速度は芍薬甘草湯中のペオニフロリンやリクイリチンなどの配糖体に比べて顕著に遅い.芍薬甘草湯をラットに摂取させることで,グリチルリチンの代謝が亢進するレスポンダーと亢進しないノンレスポンダーが認められた.ノンレスポンダーはレスポンダーの糞便懸濁液を経口投与することでレスポンダー化された.このような現象は有薬甘草湯の代わりにグリチルリチンを摂取させたラットの糞便懸濁液においても同様に確認された.グリチルリチン摂取時と水摂取時のレスポンダーとノンレスポンダーの新鮮糞便を採取し,ゲノムDNAを抽出して腸内細菌の同定を行った.水摂取時のノンレスポンダーではEscherichia Coli.がわずかに存在するだけであったが,レスポンダーではE. Coli.とRuminococcus sp.がノシレスポンダーに比べて多く,多種の菌種がみられた.またグリチルリチン摂取により,両方ともにE. Coli.が増殖しており,グリチルリチン摂取により腸内フローラのプロポーションが変化することが示唆された.レスポンダーとノンレスポンダーの反応性の相違が腸内細菌に起因すると推論し,グリチルリチン摂取によるグリチルリチン代謝の促進因子について,長期の摂取と断食による影響を検討した.その結果,長期のグリチルリチン摂取と断食によって,ノンレスポンダーがレスポンダーになることを明らかにした.グリチルリチン摂取において断食が最も重要なレスポンダー化の因子であったことから,断食はグリチルリチンの腸内代謝の主要な促進要因の一つであると考えられた.さらにグリチルリチン摂取によるレスポンダーと偽アルドステロン症の関係について尿中カリウム値と血圧を指標に検討したが,レスポンダーとノンレスポンダー間には有意差な相違が観察されなかった。 漢方薬の有効成分は配糖体のようなプロドラッグの形態で含有されており,それを代謝する個人の体質(証)によってその体内動態や薬効発現が大きく異なり,漢方薬の治療効果に影響すると考えられる.本研究で確立した代謝実験法は,非侵襲性で簡便に漢方薬中のプロドラッグの代謝を確かめることができ,漢方薬に対するレスポンダーを特定することに役立つ.
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