研究概要 |
本研究では,AFPをはじめとするフコシル化糖蛋白とその酵素学的背景であるFut8発現を指標として,肝癌組織中の糖鎖転移酵素遺伝子高発現および低発現遺伝子をスクリーニングし,それらの遺伝子ならびにその糖蛋白の同定を試みた.まず,Fut8活性抑制による糖鎖構造変化と,それに伴う肝癌細胞の浸潤動態の変化を細胞系列の樹立によって評価した.Fut8アンチセンスRNAによる発現抑制実験を行い,アンチセンスRNAをHepG2細胞にリポフェクションした系のフコシル化分画は抑制されている事を確認した.次に,Fut8に対するsiRNAの持続発現により,AFPのフコシル化が安定して抑制されるsiRNA持続発現株の樹立を試みた.Fut8 mRNAの1002塩基のAA配列に続く19塩基配列からなる配列を,polymerase-III H1-RNA gene promotorの制御下に,ポリA配列を欠き3'端にUU突出を有するRNAが転写されるベクターであるpSUPER.retro(OligoEngine, USA)にクローニングした.また,配列特異的発現抑制を確認するため,19配列の第9塩基をGからAに置換した変異配列も同時にクローニングした.そして,これらのベクターをHepG2細胞に感染させ,持続発現株を樹立した.つぎに,Fut8に対する持続的siRNA発現細胞株の樹立を試みたが,ターゲット配列を発現するpSUPER.AFTが導入された安定細胞系列を樹立することが困難であった.その原因を明らかとする目的で,B型肝炎ウイルスHBx領域を対象として上述と同様のステップを踏み,pSUPER.HBxを含めた持続安定発現細胞系列が樹立可能であった.次にHBx発現トランスジェニックマウスの尾静脈よりHydrodynamic gene delivery法による肝細胞へのプラスミドの導入を行い,pSUPER.HBxによる特異的なHBxの著明な発現抑制が確認された.次に,アンチセンスオリゴRNAによるFut8メッセージのノックダウンを試みた.その結果,アンチセンス群がFuGENE6群に比較して有意に低値をとっていた以外,他の群間に有意な差異は認められなかった.以上より,持続的なノックダウン細胞が樹立できなかった最大の原因はオフターゲット効果によることが示唆された.
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