研究概要 |
我々はこれまでに細胞周期のG2/M期におけるチェックポイント因子としてアクチン結合蛋白T-fimbrinを同定した.さらにいくつかの癌細胞株および症例サンプルにおいて,プロモーター領域の異常メチル化によるT-fimbrin発現消失が高率に認められること,およびT-fimbrinの発現レベルといくつかの抗癌剤感受性が逆相関することを明らかにしてきた.本研究では癌の悪性度および抗癌剤感受性に関与する候補遺伝子としてのT-fimbrinの機能を解析し,従来の評価法を補完する新しい診断・治療予測システムを開発することを目的とし,以下のような成果を認めた. 1.ヒト腫瘍細胞株,症例におけるT-fimbrinのプロモーター領域のメチル化の有無を解析した.その結果,胃癌,大腸癌,肝癌などの固形腫瘍に比べ,血液系腫瘍細胞株および症例サンプルにおいて,より高率に異常メチル化によるT-fimbrin発現消失が認められることが明らかになった.特に,ヒト骨髄腫,急性骨髄性白血病症例の約40%でプロモーター領域の異常メチル化を検出した.臨床への応用をめざし,より簡便なDNAメチル化の検出法であるメチライト法による診断システムを確立した. 2.T-fimbrinに対するsiRNAを作成し,ヒト骨髄腫細胞株におけるT-fimbrinの発現レベルと抗癌剤感受性との相関を解析した.その結果,T-fimbrinの発現抑制は,アドリアマイシン,メルファランなどの抗癌剤の感受性を高めることが明らかになった.また細胞周期,アポトーシスの解析から,T-fimbrinの発現抑制は抗癌剤による細胞周期停止を減弱させ,結果的にアポトーシス誘導を促進した.以上よりT-fimbrinの発現が抗癌剤感受性の指標となるとともに,癌治療の標的となる可能性が考えられた。
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