研究概要 |
我が国の肝癌の9割は肝炎ウイルス感染を背景としており、各種の肝炎ウイルス治療が開発され肝癌抑止に成果をあげている。一方・発癌機構の解析も進みHBVとHCVでは異なるプロセスで肝疾患が進展することが報告されている。過去には肝炎ウイルスのスクリーニングが十分でなく重複した肝炎ウイルス感染も多く存在したことが推測される。そこでHBV発癌メカニズムの1つであるHBV-DNAの組み込みの有無をヒト切除肝癌を対象としてカセットライゲーション法にてスクリーニングした。HBsAg陽性肝癌は計35結節にHBsAg陰性肝癌は50結節を解析し、HBV DNA組み込みを検出した結節はそれぞれ31結節、14結節であった。組み込まれたヒトゲノム配列は多結節例や再発例を含め全腫瘍において異なっていた。そのヒト染色体位置は1p,1q,2p,2q,3q,5p,6p,6q,7q,8p,8q,10p,11q,13q,14q,17q,19q,20qであり特定のターゲット遺伝子は認めなかった。3症例ではMLL2遺伝子座にHBV-DNAの組み込みを認めた。HBsAg陰性化例から発癌した1例においてもhTERT遺伝子近傍にHBV DNAが組み込まれていた。HBsAg陰性例においてもHBV-DNAの組み込みが肝発癌の重要な要因の一つとなる症例が存在することが推測された。以上よりHBsAg陽性肝癌のみでなくHBV感染既往例(HBsAg陰性肝癌)においてもHBV-DNAのヒトゲノムへの組み込みが肝発癌に関与している可能性があることを明らかにした。
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