研究概要 |
炎症や組織再生の過程は,様々な生理活性因子群による極めて精巧な生命活動であり,その破綻は連鎖的な組織リモデリング(病的な組織構造や機能障害)に続く重篤な難治性疾患(動脈硬化や喘息など)を引き起こす。従って,これに寄与する因子群の同定と制御機構の解明は,病態の未然防止や治療法開発に通ずる最重要課題と言える。研究代表者らは,組織リモデリングに働く可能性を秘めた因子群がヒト血液中に存在する事を認め,血漿因子の一つである高ヒスチジン糖タンパク質(HRG)や細胞表面接着因子を介した細胞間相互作用が炎症や組織再生にとって重要な役割を担っている事を見出した。HRGについては高いヒスチジン含有量に着目した特異的精製法を既に開発しているので,これを用いて高純度のHRGを調製し,組織炎症時の重要な生体現象とされる血管新生系並びに好中球走化性に及ぼす役割について検討した。マトリゲルを用いたプラグアッセイを用いて血管新生に及ぼす影響を検討した所,bFGFとヘパリン混合液による血管新生反応に対してHRGが極めて強い阻害作用を発揮する事を見出した。この作用はHRGの血中濃度に相当する1μMで観察され,HRG分子中のヒスチジンリッチドメインが機能を担う事も明らかとなった。走化性については,HRGが好中球に対し有意な遊走活性を示す事が明らかとなった。一方,単球細胞などの免疫担当細胞の機能解析研究の中で,細胞間相互作用を担う細胞表面接着因子群の発現変化が,生体防御の観点から極めて重要な役割を果たしている事やサイトカインなどの様々な因子によって発現が影響を受ける事も明らかとなった。これらの知見からヒト血漿中には炎症や組織再生に働く極めて多彩な生理活性を示す因子群が存在し,複雑な制御の下でそれらの機能を発揮している事が明らかとなった。
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