研究概要 |
私たちの研究の結果,検討した5株の肺小細胞癌培養株すべてが血管内皮の増殖因子であるVEGFの受容体を豊富に発現することを発見した.これらのVEGF受容体はリン酸化の検討により,シグナル伝達することと癌細胞を遊走させることを明らかにした.さらに,生検材料を用いた検討で,肺小細胞癌のほとんどがVEGF受容体を発現し,発現量が遠隔転移の頻度と相関することを明らかにした.癌の転移にはVEGFが強く関っていることが明らかにされており,血管内皮細胞とともに癌細胞そのものが新生血管壁を構成することがわかっている.また,5株ともリンパ管増殖因子のVEGF-C受容体も豊富に発現していた.これらの成績は,肺小細胞癌が増殖と血行性,リンパ行性転移が速い理由を説明するとともに,これを標的にして増殖と転移を制御する分子標的治療の可能件を強く示唆する.また,私たちの従来の研究により,肺小細胞癌培養株は少量ではあるが,EGFRを発現することが明らかになった.これに,EGFRの選択的阻害薬ゲフィニチブを作用させると,EGFRのリン酸化が阻害されることを明らかにした.これらの結果により,肺小細胞癌の治療のために,EGFR系とVEGFR系が分子標的治療の標的になる可能性が示された.増殖が速くて転移が早い肺小細胞癌で,増殖阻害と腫瘍血管新生阻害を目的とした分子標的治療が成立する可能性があることは,治療の手段を構築する上で有用な情報であると思われる.現在は,さらに移植動物実験モデルを用いて,かかる治療法を実践できる可能件と,問題点について検討を加えている.
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