研究概要 |
平成18年度は,複数腫瘍組織と近傍の正常組織におけるcDNA microarray解析によるmRNA発現プロファイリングの差違の検討を行なった.2001年から2005年の間に虎の門病院呼吸器センターに受診し,肺癌手術を施行された患者のなかで,少なくとも2個以上のLBACあるいは腺癌が確認された8症例17腫瘍検体(#1-#17)を対象として研究を進めた.腫瘍組織と近傍の正常組織の凍結保存検体を用いて腫瘍組織を正常組織から分離切除し,それぞれの摘出標本からmRNAを抽出した.まず,mRNAの品質検定を行い,以後の検討に適すると判断された2症例のそれぞれ2つの腫瘍(#8および#9,#14および#15)由来のmRNAを逆転写し,cDNAに変換後,Affymetrix社のGeneChip Human Genome U133 Plus 2.0 Arrayを用いて,ヒト遺伝子38,500個を含む転写産物47,000個以上の発現レベルを解析し,mRNA発現プロファイリングを実施した.その結果,2病変のいずれでも正常肺と腫瘍の間でプローブペア蛍光強度が2倍以上の変動を示した遺伝子のなかで,ともにmRNA発現が正常組織より低下していた遺伝子にはmetastasis associated lung adenocarcinoma transcript 1 (MALAT-1)などが検出された.逆にともにmRNA発現が正常組織より亢進していた遺伝子には,matrix metallopeptidase 7,ATP-binding cassette sub-family C member 3,CD24などが含まれていた.以上から,同時多腫瘍発生に共通の分子生物学的背景が存在することが示唆される.多発性のAAH, BACの同時性発症のメカニズムに関し,今後さらに臨床的検討と合わせて,分子レベルで解析していく予定である.
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