研究課題
基盤研究(C)
平成15年(2003年)3月飲用井戸水に混入したジフェニルアルシン酸(DPAA)による健康被害が茨城県で発覚し、中毒症状として、運動失調,ミオクローヌス,振戦などの小脳・脳幹症状を中心に後頭葉、側頭葉の症状が確認された。小児では精神運動発達遅滞もみられた。151名がDPAA暴露者と認定されて、健康診査を定期的に施行している。脳血流シンチグラフの定量的画像統計解析法にて小脳・脳幹と後頭葉の有意な血流低下が示された。ポジトロン・エミッション・トモグラフ(PET)でも同様の脳部位に糖代謝低下が認められ、神経症状と画像変化脳部位が一致した。DPAA暴露の臨床マーカー(客観的生体指標)として活用できると考えられる。DPAA曝露者の生体試料(尿、毛髪、爪、血清、血球、髄液等)から抽出分離を行い、LC-ICP/MS, LC/MS/MSでDPAAと生体内代謝物と考えられるフェニルアルソン酸、フェニルメチルアルシン酸を新たに同定、定量した。モデル動物実験ではラットにDPAA(5mg/kg/day)の28日間連続経口投与を実施し、ヒトと同様な症状発現に成功した。さらに各臓器におけるDPAAとその代謝物を定量し、体内分布を調べた。DPAAは大脳、小脳、脊髄などの中枢神経系に移行はし難いが、一度、移行すると中枢からの排泄は遅い傾向がみられ、投与中止14日後でも中枢神経ではDPAAおよび生体内代謝物の残留傾向がみられた。特に小脳・脳幹に有意に蓄積しやすいことが判明した。ジフェニルアルシン酸の排泄経路として尿から約50%糞便中から約50%排泄されることが明らかになった。糞便中の排泄量を経時グラフにするとDPAAは腸肝循環していることが判り、この腸肝循環を断ち切る吸着剤が体外排泄を促進させ、DPAAの急性期治療として利用できると考えられた。今後、候補物質による体外排泄促進実験を実施したい。
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