研究概要 |
平成16および17年度の2年間,HTLV-I関連脊髄症(HAM)におけるTh1サイトカイン(IFN-γ)およびHTLV-I発現に関与するシグナル伝達系を解明するために以下の解析を行なった。 (平成16年度)HTLV-I感染T細胞株における検討において,HAM患者由来HTLV-I感染T細胞株では対照HTLV-I感染T細胞株に比較して,明らかなp38 MAPKの活性化を基盤としてIFN-γおよびHTLV-I発現が亢進していた。この事実はp38 MAPKの特異的阻害剤であるSB203580処理による解析において確認された。次に培養末梢血CD4陽性T細胞におけるIFN-γ発現に対するSB203580の効果を検討した結果,HAM患者では有意に抑制効果がみられたものの,HTLV-Iキャリアーを含む対照患者では明らかではなかった。さらにSB203580処理によるHAM患者培養末梢血CD4陽性T細胞においてHTLV-I発現の有意な抑制がみられた。以上の結果より,p38 MAPKの活性化はHAM患者末梢血におけるhigh HTLV-I proviral loadを基盤としたTh1の活性化に関与していることが示唆された。 (平成17年度)p38 MAPKの最上流域にはIL-2シグナリングが存在する。HAM患者培養末梢血CD4陽性T細胞を用いて抗IL-2レセプター(IL-2R)阻害抗体によるIFN-γおよびHTLV-Iの発現の抑制実験を行なった結果,有意に両者の発現は抑制された。その中でも特に抗IL-2Rα阻害抗体による抑制効果が最も強かった。しかし,IL-2Rの直ぐ下流にあるJak3に対する阻害剤処理では両者に対しての抑制効果は得られなかった。以上の結果より,IL-2R/p38 MAPKシグナリングはHAM患者におけるIFN-γおよびHTLV-Iの発現に関与していることが明らかにされた。しかし,Jak3阻害剤では両者の発現に対する抑制効果が得られなかったという事実はIL-2Rからp38 MAPKに至る過程には別のシグナルの関与も考えられた。いずれにせよ,IL-2R/p38 MAPKシグナリングはHAMにおける治療戦略の標的になる可能性を持っていると考えられた。
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