研究概要 |
1.グルコース、インスリンが血清パラオキソナーゼ(PON1)遺伝子の転写に及ぼす影響 ヒト肝癌由来HepG2細胞およびHuh7細胞においてレポーター遺伝子アッセイを行い、グルコースがPON1転写活性を特異的に増強することを明らかにした。一方、インスリンも同転写を亢進させたがその影響は軽微であった。 2.グルコース、インスリンがPON1発現量に及ぼす影響 HuH7細胞およびヒト正常肝細胞において、グルコースがPON1のmRNAや蛋白発現量を増加させることを、RT-PCRとウェスタンブロッティングにより証明した。 3.高濃度グルコースによりもたらされるPON1発現量変化の機序 各種阻害剤を用いた検討やプロモーター領域の欠失解析により、グルコースによるPON1発現増加にプロテインキナーゼCによる転写因子Sp1の活性化が関与することを明らかにした。 4.2型糖尿病モデル動物における肝PON1合成の変化 2型糖尿病のモデル動物であるPsammomys obesus(sand rat)における検討で、糖尿病状態(高血糖・高インスリン血症)にある同ラットでは、正常血糖・正常インスリン血症ラットに比べ、肝におけるPON1発現量が有意に増加していたが、食餌エネルギー制限により正常血糖・高インスリン血症に維持したラットではPON1発現増加は認められなかった。 5.総括および研究成果発表 糖尿病状態では,肝におけるPON1発現が増加する.その機序として,持続的高血糖によるプロテインキナーゼCの活性化とそれによる転写因子Sp1の活性化が関与していると考えられた.糖尿病患者において血中PON1酵素活性の低下が報告されているが,今回の結果より,この低下は肝における本酵素合成低下に起因するものではなく,グリケーションなど末梢における修飾によるのと推察された.
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