研究概要 |
IGFおよびIGF結合蛋白の病態生理的意義に関して以下に示す知見を得た。 1)低血糖を呈するIGF-II産生膵外腫瘍の臨床像の検討 低血糖を呈する膵外腫瘍(non-islet cell tumor hypoglycemia : NICTH)の中には腫瘍がIGF・IIを産生分泌し,これが低血糖の発症に関与すると考えられる症例がある。このIGF-II産生NICTHでは血中に多量の大分子量IGF-IIが検出される。今回,このIGF-II産生NICTHの78例の臨床像について検討した。原因腫瘍として肝細胞癌(24例),胃癌(10例),中皮腫(6例)が多く,腫瘍径10cm以上の腫瘍が72%であった。半数の症例は低血糖発作を初発症状として腫瘍が発見されたが,残り半数は腫瘍性疾患の治療経過中に低血糖症状が出現した。血中IGF-I値は全例で低値であるが,血中IGF-II値は必ずしも高値ではなかった。血糖/IRI比は検討されたすべての例で0.3未満であった。血中総蛋白は正常(平均6.6g/dl)であり,55%の症例で低K血症を認めた。インスリンの過分泌を伴わない低血糖症に遭遇した際,大きな膵外腫瘍を認め,血中IGF-I値が抑制されていればIGF-II産生NICTHである可能性が高く,一部の症例では低血糖に随伴して低K血症が認められた。 2)甲状腺組織におけるIGF-I受容体の発現と機能 手術時に得られた甲状腺乳頭癌組織および非腫瘍部から細胞を初代培養し,IGF-I添加後,細胞溶解液をIGF1R抗体で免疫沈降し,免疫複合体をSDS-PAGEで展開した。チロシンリン酸化抗体またはIGF1R抗体を用いたWestern blot法にてIGF1Rのリン酸化状態及びIGF1R蛋白量を解析した。腫瘍部では非腫瘍部に比しIGF1Rが1.3〜2.5倍と多く発現していた。IGF1R蛋白量当たりのIGF1Rチロシンリン酸化は非腫瘍部と腫瘍部では有意差がなく,IGF-I刺激により1.3〜1.9倍に増加した。また,先端巨大症に合併した乳頭癌組織でも上記と同様の所見であった。甲状腺腫瘍部は非腫瘍部と比しIGF1Rが多く発現しており,腫瘍発育に寄与していると考えられた。甲状腺乳頭癌組織の予後に及ぼすIGF1R発現の影響に関して検討を行い,予後不良群では甲状腺未分化癌に類似し,IGF1Rの発現が減弱していることを認め,甲状腺乳頭癌におけるIGF1Rの発現が予後に関与する可能性を示唆する所見を得た。
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