研究概要 |
急性骨髄性白血病においては、レセプター型チロシンキナーゼであるc-KitやFLT3の恒常的活性化変異が認められ、これらの遺伝子異常は急性骨髄性白血病の予後不良因子であることが示されている。c-Kit, FLT3は共に膜直下領域、キナーゼ領域の変異により恒常的活性化を示すが、特にキナーゼ領域変異体は膜直下領域変異に比して、チロシンキナーゼ阻害剤に抵抗性を示し新たな阻害療法の開発が必要である。c-Kit、Flt3の野生型およびキナーゼ領域変異、KIT V814、Flt3 V838を用いそれぞれの細胞内ドメインの22個のチロシン残基を1個ずつフェニルアラニンに置換した変異を導入しそのキナーゼ活性およびシグナル伝達に及ぼす影響について比較検討した。KIT V814においてはキナーゼインサート部位のTyr719をPheに置換することでチロシンキナーゼ活性が消失するが、FLT3 V838においてはキナーゼ領域内のTyr845,Tyr892,Tyr922をPheに置換することでキナーゼ活性が消失した。このように活性化変異チロシンキナーゼにおいては、特定のチロシン残基がそのキナーゼ活性の維持に重要であることが示された。Tyr845Phe, Tyr892Phe, Tyr922Phe変異体はその蛋白分解が亢進しており、またキナーゼ活性は温度を低下させることで一部回復し、温度感受性を示した。更にシャペロン蛋白であるHsp90,Cdc37を共発現させることでそのキナーゼ活性の回復を見た。これらの事実よりTyr845,Tyr892,Tyr922はFLT3 V838の活性化構造の安定化に重要なチロシン残基であることが明らかとなった。さらにFLT3の他の活性化変異Flt3-ITD, Ile839delにおいても、これらのチロシン残基はその活性発現に重要であり、これらのチロシン残基を標的としたFLT3変異阻害療法の開発が今後検討されうることを示した。
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