研究概要 |
申請者らはこれまで全身性エリテマトーテス(SLE)患者末梢血T細胞(PBT)ではζ鎖の発現が低下あるいは欠損しているために細胞内のシグナル伝達に異常を来すこと、そしてそれがζ鎖mRNA splice variant発現に伴うことを報告してきた。そこで本研究では、exon7を欠損したζ鎖mRNA発現に伴いζ鎖を含めたTCR/CD3複合体発現が変化するかどうかを検討するとともに、ζ鎖発現低下に伴ってT細胞で二次的に発現が亢進あるいは低下する分子を検討することを目的とした。exon7を欠損したζ鎖mRNA(ζmRNA/exon7-)が優位に発現されることで実際にζ鎖を含めたTCR/CD3複合発現が低下するかどうかをretrovirus vectorを用いたin vitroの系で検討したところ、ζmRNA/exon7-の安定性が悪いためにζ鎖発現量、抗CD3抗体刺激後のIL-2産生が低いことが示唆された。次にわれわれは、alternative splicingによって生じた短い3'UTRをもつζmRNA(ζmRNA/as-3'UTR)やexon7を欠損したζmRNA(ζmRNA/exon7-)などのζ鎖mRNAスプライス・ヴァリアントが優位に発現され、ζ鎖タンパク発現が低下することで二次的にTCR/CD3複合体以外にどのような分子が発現亢進あるいは低下するかについてcDNAマイクロアレイを用いて検討した。その結果、ζ鎖mRNAスプライス・ヴァリアントでは各種ケモカイン(CCL9,CCL3,CCL1,CCL5,XCL1)やサイトカイン(IL-2,IL-18,IL-13,IL-15,TGFβ-2)が発現低下していた一方で、poliovirus related protein-like 2(Pvrl2)やsyndecan-1などの細胞接着分子、あるいはgranzyme Aやmatrix metalloproteinase 11などの細胞傷害因子などが著明に発現亢進していることが明らかになった。実際にSLE患者におけるSyndecan発現を検討してみると、SLE患者T細胞ではSdc4糖類発現が認められ、これがHS糖議の一部であるN-アセチルグルコサミンを結合させるexostosin-like 2 (EXTL2)酵素発現低下に伴う可能性のあることがわかった。
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