研究概要 |
神経・免疫・内分泌軸は互いに相互作用を及ぼし,生体の恒常性の維持に重要な役割を果たしていることが明らかになっている。自己免疫疾患においてもその病態の増悪にストレスや天候,妊娠・出産などが関与していることが,経験的に知られており,神経・内分泌系が自己免疫の病態に関与していることが示唆されてきた。 そこで本研究では関節リウマチの滑膜や全身性エリテマトーデス患者のリンパ球を用いて,自己免疫疾患に関わるホルモン,神経ペプチドの関与を解析した。関節リウマチの滑膜組織においてプロラクチンの発現は充進しており,特にTリンパ球からの産生が顕著であった。マクロファージ様滑膜細胞や線維芽細胞様滑膜細胞からもプロラクチンは産生され,一方これらの細胞はプロラクチンのレセプターも発現していた。滑膜細胞にプロラクチンの分泌を抑制するプロモクリプチンを添加し,EUSA法でその培養上清を測定した結果,滑膜から産生されるTNFαやIL-1β、IL-6などのサイトカインの産生にプロラクチンは関与していた。滑膜細胞にプロラクチンを添加することで,これらサイトカインの産生は亢進し,また細胞増殖も増強された。さらに関節リウマチの滑膜組織において神経ペプチドの発現を検討した。VIPの発現は亢進していたが,CGRPの発現は低下が認められた。これはこれまでの滑液中の神経ペプチド測定の報告結果に合致する所見であった。 また全身性エリテマトーデス患者末梢血ではプロラクチンの産生が増加していることが知られている。全身性エリテマトーデス患者から樹立した自己反応性T細胞クローンにプロラクチン、神経ペプチドを添加し、増殖反応を検討したが、増殖には影響はなかった。 プロラクチンは成長ホルモン(GH)、インスリン成長因子(IGF)と共にネットワークを形成し、免疫細胞の成熟/分化に作用することが知られている。そこで自己免疫疾患(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、血管炎)患者および健常者の血清中のこれらの因子の濃度を測定した。プロラクチンは健常者に比べ自己免疫疾患(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、血管炎)で高い傾向にあった。成長ホルモンも健常者に比べ自己免疫疾患(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、血管炎)で高い傾向にあった。SLEで1名成長ホルモンが高値であった。IGF-1は血管炎の患者で健常者や関節リウマチ、全身性エリテマトーデスに比べ低下傾向であった。IGFBP-3は1名血管炎で高値をとるものが認められた。
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