研究概要 |
先天性免疫不全症の病因遺伝子の解明はこの10年で大きく進歩した。多くの疾患遺伝子が明らかになったが、そのいくつかは不明のまま、残されている。その一つがIgA欠損症の病因遣伝子である。IgA欠損症は欧米では最も頻度の高い先天性免疫不全症である。臨床症状は感染を繰り返すものから、ほとんど易感染を認めないものまでさまざまである。IgA欠損症の病因を明らかにすることは、診断ならびに新規治療法の開発に有用であるのみでなく様々な病態により生じる二次性の免疫不全症の治療にも有効と考えられる。2005年にTNF-αのリセプターファミリーのTACIが一部のIgA欠損症およびcommon variable immunodeficiency(CVID)の病因遺伝子であることが報告された。そこで、本邦のIgA欠損またはIgA低下症、CVIDのTACIおよびそのリガンドの遺伝子変異の有無について検討した。さらに、IgAのサブクラスIgA1,IgA2についても特異的に発現を検出する系を作成し病態の解析を試みた。8名の低IgA血症患者、3名のCVID患者より末梢血を採取した。末梢血好中球よりゲノムDNAを抽出し各エクソンにプライマーを設定しダイレクトシークエンスをおこなった。末梢血単核球よりRNAを抽出し、cDNA合成後、IgA1,IgA2の共通の領域にプライマーを設定しRT-PCRを行い、4%アガロースゲルに電気泳動し、サイズの違いでIgA1,IgA2の遺伝子発現を特異的に検討した。TACI,APRIL,BAFF,BCMAに関して塩基配列を検討したが、病因となる遺伝子変異は検出できなかった。本邦のIgA欠損症、CVIDにおけるTACI遣伝子変異の頻度はそれほど高くない可能性が示唆された。IgA欠損症ではクラススイッチに先立って発現するalpha germline transcript, circle transcriptの発現低下が認められた。さらに、IgA1,IgA2の発現をサイズの違いにより半定量的に検出する系を確立した。健常人の末梢血単核球のIgA1:A2の発現の比率は約7:3前後であった.この系を用いてIgA欠損症のなかにIgA1単独欠損またはIgA2単独欠損といった病態が存在しないかをスクリーニングすることが可能であり、IgA欠損症、CVIDのさらなる病態解明に有用と考えられる。
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