研究概要 |
大麻は世界中で乱用されており,大きな社会問題となっている.特に,10代(思春期)での大麻乱用は,精神障害を引き起こす可能性を高めることが報告されている.そこで今回我々は,思春期の大麻活性成分delta-9-tetrahydrocannabinol(THC)慢性投与が,成人期の精神症状に対してどのような影響を及ぼすのか検討を行った.実験では,6週齢ddY系雄性マウスを用い,21日間に渡って1日1回THCを慢性投与(s.c.)した.慢性投与終了21日後からprepulse inhibition(PPI),Open-field法を用いた自発運動量,放出赤外線検出型センサーを用いた自発運動量、Rota-rod法を用いた協調運動,Catalepsy様不動状態,強制水泳試験を用いたうつ症状およびPlusmazeを用いた不安症状について検討した.さらに,56日後に再度PPIに及ぼす影響を検討した.その結果,思春期におけるTHCの慢性投与は,1mg/kg(s.c.)の用量では何らマウスの行動に影響しなかったが,10mg/kgの用量においてPPIの減弱が認められた.さらに,この減弱は56日後においても観察された.一方,自発運動量ならびに協調運動に影響は認められなかった.また,Catalepsy様不動状態,不安症状およびうつ症状の発現も観察されなかった.このことから,運動障害や不安などの情動障害によって情報処理障害が起こるのではないことが示唆された.統合失調症患者では,PPIが減弱しており,情報処理障害を引き起こすことが知られている.今回我々は,思春期におけるTHC慢性投与が,成人期におけるPPIを減弱し,情報処理障害を引き起こすことを明らかにした.さらに我々は,この障害は一過性のものではなく持続することを見つけ,思春期の大麻服用による精神障害発現のメカニズム解明に有用な動物モデルを作成することができた.また,組織学的検討において海馬などの脳部位ではなんら変化はみられなかつたことから,この情報処理障害は器質的変化によるものではなく,機能的変化によることが考えられた.さらに,抗精神病薬であるハロペリドールによって改善されなかったことから,幻覚・妄想などの急性の統合失調症様症状によってこの障害が起こるのではなく,慢性的な統合失調症様症状を引き起こしている可能性も示唆された.
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