研究概要 |
今日まで,生体における血流や組織組成の情報を得ることが可能な放射線医学画像と生体蛋白解析を行う分子病態学との連携は必ずしも十分ではなかった.本計画の主研究者は長年,肝癌の画像診断に携わり,肝癌の血流や組織組成と画像所見との関係に関して多くの知見を得てきた.一方,研究分担者は肝癌の外科診療に携わり,蛋白定量研究を通して,肝癌の病態と体液性物質の関連に関して,多くの知見を得てきた.今回,放射線医学と分子病態学のコラボレーションにより,放射線画像医学から血管新生病態診断へのアプローチにおいて一定の成果を得た. 結果としては,肝癌の動脈性濃染強度は血管内皮増殖因子(VEGF)発現強度と負の相関を,T2信号強度は発現強度と正の相関を,T1信号強度は負の相関を示した.不均質な濃染,不均質なMR信号を呈する肝癌では強いVEGF発現が認められた.以上の結果は,これまで示されたことはなく,臨床放射線画像所見がVEGF関連の分子病態と無関係でないことを示した.VEGFは十分な動脈性血流を獲得していない肝癌において,hypoxiaによるupregulationを介して強く発現することが推察され,その発現は局所での血管透過性を高め,細胞間質の水分量が増えるため,MRI上はT1およびT2緩和時間の延長につながったと考えられた. 今後はこれらの成果に基づいて,VEGFの免疫染色ヒト肝細胞成長因子(HGF),エリスロポエチン抗体等,VEGF関連蛋白およびそれ以外の血管新生蛋白の発現と放射線画像所見との関連を追及する予定である.これらの研究により,逆に放射線画像情報から血管新生の活性をモニタリングすることが可能になり,将来において可能性を持つ抗血管新生因子による動注,局所治療の非侵襲的効果判定,モニタリングに貢献することが考えられる.
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