研究概要 |
血管内皮細胞に発現しているecto-NTP Diphosphohydrolase(E-NTPDase)は、活性化血小板より放出されたADPを分解することにより抗血栓機能を担っている。本研究では胎盤より精製された2種類のE-NTPDase(PlacIおよびPlacII)をラットの頸動脈に遺伝子導入し、生体内における抗血栓作用を検討した。 結果1.ラットの培養血管平滑筋細胞に、アデノウイルスベクターを用いてPlacI, IIの遺伝子導入を行った。PlacI遺伝子を導入した平滑筋細胞は、高度のATPおよびADP分解活性を示した。また、PlacI遺伝子導入の平滑筋細胞存在下では、ADPならびにコラーゲンによる血小板凝集は有意に抑制された。以上の結果を踏まえ、ラット生体内でレーザー照射による血栓形成モデルを用いて、PlacIの抗血栓作用を検討したが、PlacI遺伝子導入血管では、10分間の照射においても閉塞性血栓の形成は認められなかった。 ATPおよびADPは強い平滑筋収縮能も有していることから考えると、本酵素が血小板凝集とともに血管収縮能に対しても抑制作用を有し、上記のような高度の抗血栓作用を示した機序も推測された。そこで、PlacIを高発現させた動脈を用いて、ATPおよびADPに対する血管収縮能への影響を検討した。 結果2.遺伝子導入5日後に摘出した血管を使用し、KCl, NA, ATP, ADPによる収縮反応を検討した。KClとNAに対する収縮反応は内皮細胞剥離後の遺伝子非導入血管、LacZ導入血管、PlacI導入血管で有意な差は認められなかった。一方、ATP, ADPに対する収縮反応は、PlacI遺伝子導入血管ではATP, ADPに対する血管収縮能が、LacZ導入血管に比して有意に低下した。 胎盤由来のE-NTPDase Iは、傷害動脈壁においてATP, ADPに対する血管収縮を抑制することが示された。 以上のことから、本酵素は傷害血管において、血小板凝集と血管収縮をともに抑制することにより,閉塞性血栓の形成を抑制する可能性が示唆された。
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