研究概要 |
がん細胞ミトコンドリア代謝に与える放射線照射の影響を検討した.一般に,アポトーシスによる細胞死では,ミトコンドリア膜電位の減少が細胞死に先行することがあることから,今年度はとくに,放射線誘導アポトーシスとミトコンドリア代謝との関連を検討した.ラット卵黄嚢由来で,放射線誘導アポトーシスの発生頻度および放射線感受性の異なる2つの細胞株(野生型p53発現を示すNMT-1と,その放射線抵抗性変異株で変異型p53発現を示すNMT-1R)を用いて,放射線照射後に誘導されるアポトーシスとミトコンドリア膜電位の関連を検討した.アポトーシスはHoechst 33342による核染色を用い蛍光顕微鏡により放射線照射後のがん細胞を観察し,その形態学的特徴からアポトーシスの出現頻度を算出した.ミトコンドリア膜電位はシアニン色素である3,3'-dihexyloxacarbocyanin iodide(DiOC6(3))を用いフローサイトメトリにて計測した.その結果,放射線感受性株であるNMT-1では1.5,3,6 Gy照射後12時間に21-31%のアポトーシスの出現を認めた.一方,放射線抵抗性株であるNMT-1Rでは1.5,6,10 Gy照射12時間後でも最高で8%しかアポトーシスを認めなかった.ミトコンドリア膜電位は,NMT-1細胞ではコントロールに比較して1.5,3,6 Gy照射12時間後にそれぞれ95%,71%,58%と減少したが,NMT-1R細胞では,1.5,6,10 Gy照射12時間後に79%,72%,72%までしか減少しなかった.また,ミトコンドリア膜電位はNMT-1細胞では照射8時間後から大きく減少したが,NMT-1R細胞では,照射4-12時間後では膜電位の減少はほぼ横ばいであった.以上から,放射線誘導アポトーシスにおいても,他のアポトーシス同様,アポトーシス誘導に先行してミトコンドリア膜電位の減少がみられることが示された.
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