研究概要 |
【研究目的】ラットの肝臓に肝幹細胞を誘導してから致死的な虚血を加え、肝幹細胞誘導により肝虚血耐性獲得が可能か明らかにし、ストレス蛋白について遺伝子・蛋白レベルでその発現を検討し、虚血耐性獲得の機序解明を図る。 【方法】ラットの脾臓を皮下に固着し3週後に門脈本幹を結紮し、肝上皮性細胞が誘導される門脈結紮3日後のラットを用いた。門脈結紮60分後に肝虚血再灌流を加えるPVO群(N=5)と門脈を結紮しないControl群(N=5)を作成し、再灌流3時間後の肝酵素、肝組織像を比較した。次に門脈遮断による肝虚血再灌流障害の誘導にストレス蛋白発現が関与するか否かを検索した。また門脈狭窄モデルを用い、門脈結紮による門脈血の一時的な欠如が肝上皮性細胞出現に必要条件なのかどうか検討した。 【成績】血清AST, ALT, LDH値は、Control群で3,854±767IU/L、5,345±1,722IU/L、68,030±11,221IU/L、PVO群で1,813±169IU/L、1,149±459IU/L、14,884±7,556IU/Lであり、各々で両群間に有意差を認めた(P<0.01)。肝組織像は、Control群では肝細胞の凝固壊死が広範にみられたが、PVO群の肝組織構築はよく保たれていた。HSP72は門脈結紮後発現が認められなかったが、HO-1は肝細胞では増加せず類洞壁細胞において増加した。また門脈狭窄モデルでAFP陽性細胞が正常肝でわずかに増加したが、門脈結紮時にみられた多数の陽性細胞出現はなかった。 【結語】門脈遮断3日後のラットの肝臓には肝虚血再灌流障害に対する耐性が認められた。この時期肝内にはAFP陽性の肝上皮性細胞が増加しており、虚血耐性獲得におけるこの細胞の関与が示唆された。肝実質細胞に発現するストレス蛋白がこの耐性獲得に主たる役割を果たしている可能性は低いと考えられた。
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