研究概要 |
癌の進展、転移の成立には、collagen, laminin, fibronectin, heparan sulfate proteoglycan(HSPG)などの細胞外マトリックスの構成分子が破壊されることが必須である。なかでも、最も堅牢なheparan sulfate proteoglycan(HSPG)を分解・破壊する酵素がヘパラナーゼ(以下,HPA)である。われわれはこれまでに、HPAが癌の進展に密接に関わる事を示してきたが、この事は諸家の報告とほぼ一致する。一方でわれわれは、HPAが癌の浸潤転移において重要な役割を果たす血管新生に関わることを初めて明らかにした。また、これまで細胞の分化機構の詳細な過程は未だ明らかとなっていないが、最近の研究でHPAの核内移行が細胞の分化を誘導することも初めて見出した。 <血管新生>HPAとサイクロオキシゲナーゼ-2(以下COX-2)は共に血管新生を含む腫瘍の悪性度に決定的な役割を果たしていると考えられているが、さらにHPAがCOX-2を誘導することをプロモーターレベルで証明した。その過程は以下のとおりである。まず食道癌症例77例の外科的切除組織を用いて免疫組織化学染色にてその発現分布を検討した。両者の発現様式は腫瘍組織内で非常に類似しており,腫瘍先進部,腫瘍近傍間質組織内の血管内皮に強い発現が見られ,腫瘍悪性度および腫瘍内微小血管密度と有意な強い相関がみられた。続いてHPAを導入した食道癌細胞株にてCOX-2の発現をRT-PCR, Western blotにて検討した。HPA導入細胞ではCOX-2のmRNA,蛋白の発現の増強が認められた。さらにルシフェラーゼ発現型COX-2プロモーターデリーション(またはミューテーション)ベクターを用い,ルシフェラーゼアッセイにて転写レベルでの解析を行った。COX-2の転写活性はHPA導入により促進され,cyclic AMP responsible element, NFκBおよびNF-IL6が強く転写活性に関与していた。以上より,食道癌においてHPAとCOX-2は悪性度,血管新生を通じて相関しており,COX-2の発現はHPAにより制御されていることが示唆された。また、同様の知見は乳癌、胃癌で確認された。この結果から癌の進展における全く新しい血管新生の情報伝達経路が明らかになり、癌進展の仕組みの解明とその制御の開発に新しい観点が見出されたことになる。
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