研究概要 |
肝切除術は肝硬変合併肝癌に対し局所制御には最も有効な治療ではあるが肝硬変による肝機能低下により術後肝不全が懸念されるため,適応外となることが多い。HGFは肝再生因子としての作用を示し,truncated type II TGF-β receptor(TβTR)は線維化進行において中心的な役割を果たすTGF-βのシグナル伝達ブロックする作用を有する。本研究では,Adenovirus vectorを用い,HGF及びTβTRを発現する遺伝子を肝硬変肝切除モデルに導入し治療効果を検討した。 1.肝硬変モデルにおけるin vivo発現実験 ラットに対しdimethylnitrosamine(DMN)の投与を3週間行い,肝硬変を作成した。AdLacZ(1.0×10^8pfu〜2.0×10^9pfu)を門脈内投与し,肝硬変モデルにおける発現効率および肝機能障害の程度を検討した。その結果,5.0×10^8pfu〜1.0×10^9pfuの投与量において,発現効率が良好で,肝障害も軽度であった。 2.肝硬変10%肝切除モデルに対する治療実験 肝硬変モデルに対し10%肝切除を行い,(1)AdLacZ(対照群)(5.0×10^8pfu),(2)AdTβTR(5.0×10^8pfu),(3)AdHGF(5.0×10^8pfu),(4)AdHGF+AdTβTR(併用群1:1,総量1.0×10^9pfu)を各群とし門脈内投与した。DMNの投与を2週間追加した後,治療効果を検討した。病理組織学的評価にてAdHGF群,併用群では線維組織の減少が著明で,併用群で最も線維化の改善が認められた。血清ALT値において他群と比較し,併用群で有意に低値を示した。PCNA免疫染色においてAdHGF群,併用群にて陽性肝細胞数の有意な増加を認めた。また,併用群において著明な生存率の改善が認められた。 以上の結果よりHGF,TβTR併用遺伝子治療は線維化,肝機能および肝再生を改善することにより肝切除術適応拡大に寄与する可能性が示唆された。
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