研究概要 |
癌血管の特異性を解明するために、マウス癌細胞含有チャンバー移植実験モデルとMarigel asseyを用いて、Colo320大腸癌細胞株の皮下血管に癌血管新生を起こし、肉眼的血管構築の変化と血管面積、CD34微小血管密度(MVD)、皮下組織の血管薪生因子(Ang-1、Ang-2、VEGF)を測定した。その結果、癌周囲組織ではAng2/Ang1 balanceは常に正に傾いて血管伸長が有意な状態にあり、特徴的な癌血管構築に繋がっている可能性が示唆された。この実験系において、最近開発された選択的抗Thrombin作用を有する新規抗凝固薬であるArgatrobanに着目し、その癌血管新生抑制効果を検討した。 Argatroban投与群の新生血管は非投与群と比べ、有意に抑制され、免疫組織学的にもそのMVDも有意な低下がみられた。血管新生因子も抑制傾向がみられたが、Matrigel asseyによるHUVECの毛細管形成能は拘制されず、血管内皮細胞に対する直接作用は少ないと考えられた。以上の結果よりArgatroanは癌血管新生を抑制する可能性が示唆され、抗腫瘍効果が期待できる薬剤と考えられた。また癌組織のAng2/Anglbalauceから癌血管新生の抑制戦略にはAng1による競合的Ang2抑制やTie2receptor阻害などによるAngシグナルの抑制が効果的である可能性が示唆された。 さらに血管作動性の癌血管の特徴を解明するために、癌血管の一酸化窒素(NO)代謝異常に着目し,癌血管新生過程におけるNO-VEGF代謝を中心とした解析を行い,NO阻害薬であるNG-nitro-L-arginine methyl ester (L-NAME)による癌血管新生抑制と血管構築の変化を大腸癌細胞株マウス実験モデルを用いて検討した。またこの実験系において,血管新生関連因子であるHGF, FGF, Endostatin発現についても検討した。Colo320DM Chamberを移植したマウスにL-NAMEを投与すると既存血管の拡張は抑制され,毛細血管の新生も抑制された。血管面積測定ではColo320DM群に比較し,L-NAME投与群で有意に減少していた。血中NOX量は,Colo320DM群(対象群)に比較し,L-NAME投与群で有意に減少していた。ELISA解析によるChamber接触皮下のVEGFの定量ではL-NAME投与群で有意な減少があった。Real time PCR解析では,Chamber接触皮下のVEGF mRNAの発現が有意に低下していた。HGF、Endostatin、FGF mRNAは今回は有意差が認められなかった。VEGFの低下を伴ってL-NAMEは癌血管新生を抑制した。NO代謝阻害薬は癌血管新生を挿制する可能性がある。
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