研究概要 |
細胞を安定化し低温保存できる抗氷核物質(Antifreeze product, AFP)を用いた肺の低温(氷温)保存が臓器細胞保存と移植後再還流障害の抑制に及ぼす効果についてラットを用いた動物実験を行った。 【対象と方法】保存液を糖分を含まないEuro-Collins(EC)液にした.EC液にブドウ糖(3.5g/100ml)を加えたものをECG液,EC液に保存効果の高いトレハロース(6.84g/100ml)を加えたものをECT液,ECG液にBacillus thuringiensis由来のAFP(200μg/ml)を加えたものをAFP液とした.250-300gのWister系ラットで心停止後、心臓と肺を取り出し,次の8群に分類した保存法で1時間および24時間保存した.各群でtrypan blue排泄・ATP, LDHによる細胞活性・病理所見による肺損傷など保存肺の組織活性を検討した.(各群n=4) 1群:-1℃EC液,2群:4℃EC液,3群:-1℃ECG液,4群:4℃ECG液,5群:-1℃ECT液,6群:4℃ECT液,7群:-1℃AFP液,8群:4℃AFP液. また,250-300gのWister系ラットを用いて,3群,5群,7群で左肺同種移植を行った.移植後2時間で移植肺を摘出し,病理学的評価と乾湿重量比を測定した.(各群n=2) 結果の数値は平均値で表し、Mann-Whitney U testで比較検定した。p<0.05以下を有意差ありとした。 【結果】保存の評価:保存1時間に対する保存24時間の細胞ATP, LDH比率の結果は上記群の順に,肺ATP(%、Fig.3):69.5,34.5,84.1,73.5,91.4,76.7,86.1,76.5,肺LDH(%、Fig.4):112.0,151.0,104.0,93.7,92.5,92.4,83.8,98.0.肺ATPは各保存液ともに,4℃群は-1℃群に対し有意に低下した.ATPの温存は,4℃ではECT≧AFP≧ECG>EC,-1度ではECT>AFP≧ECG>EC.肺LDHの逸脱は4℃ではEC>AFP≧ECG≧ECT,-1度ではEC>ECG>ECT>AFP.同様にtrypan blue排泄能の低下・細胞浮腫などの細胞障害は-1℃群で4℃群に比べ強かった.EC群は他の3群に比べ細胞障害が強かったが,他の3群間で有意差はなかった. 左肺同種移植後,摘出肺の評価:病理学的には肺水腫の所見であったが3群,5群,7群で差は確認できなかった.乾湿重量比は3群,5群,7群でそれぞれ0.45,0.41,0.43と差を認めなかった. 【結論】AFP添加による肺保存効果はトレハロースに比べ少ないが,特に低温での保存に有用である可能性がある.
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